漢方的な考え方

肝の病と腎虚

もう数年前になるが、テレビを見ていて感動した事がある。宮城県の気仙沼は有名な牡蛎の産地であった。ところが近年収穫量も減り、味も落ちてきた。

そこで関係者が本場フランスの牡蛎の養殖場に見学に行った。そこで、大いなるヒントをつかんで帰ってきた。それは、牡蛎の味が落ちたという事は湾の水質が変わって、プランクトンに変化があったのではないか。そこに注ぎ込んでいる川の水質はどうだろうか。さらに支流の水質はどうだろうか。このように上流へ上流へと遡って考えていかれた。

最後は山に植林されている樹木にまで辿り着いた。そういえば、ここ数年、湾内から望む山の姿は変化している。水質の悪化の原因はここにあったのかと気付いたそうである。それから早速行動に移された。なんと、海の漁師さんが自らの手で山に植林をされた。それから数年後、水質も改善され、この湾は美味しい牡蛎の産地として賑っている。

この考え方、実は漢方にも共通する処がある。例をあげてご説明すると、目がクシャクシャする、充血する。こういった目の症状を訴えてきた人がいる。この人は他にも、仕事の締め切りが迫るとイライラする。筋肉が固く腰痛がある。酸っぱい物を好む。熟睡できない。決断力が鈍る、こういった症状がある。漢方ではこんな場合、これを『肝の病』と捉え、抑肝散という漢方薬を処方する。先ほどの例で言えば、目の上流を辿っていけば肝に辿りつくのである。 肝を整え、一連の症状を総合的に治して行こうというわけである。

耳が聞こえにくい。特に早口で喋られたら聞き返さないといけないと耳の症状を訴えて来られた。他にオシッコに勢いが無い。下半身が冷える。漢方ではこれを腎虚と見て八味丸を処方する。耳の上流を辿っていけば腎に辿りつくわけである。

今、生きている私たち。その家の長い家系で言えば中流に位置する事になる。上流のご先祖様を大切にしなければならないと小さい頃から教えられてきて手を合わせてきた。お盆や施餓鬼、回忌といった仏教行事も務めている。

一方、下流は私たちの子や孫の代である。今、日本はこちらをどうするか迷っている時代ではないだろうか。家は代々継続しなければならない。その為には大事なことや経験や技術を伝承していかなければならない。ところが、せっかくの夕食も残業等の関係で家族の食事時間がバラバラなのである。これではうまく伝わっていかない。これが実情である。

『積善の家に余慶あり』という言葉がある。昔の人は自分たちがちゃんと過ごしておれば、いずれ子や孫の代に良い事があるとおっしゃった。その事を信じて毎日仕事に励んでいるのである。

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